12.人工内耳

【概念】耳鼻咽喉科学の領域で、最近のトピックニュースを1つ挙げよと言われれば、人工内耳になるでしょう。従来、内耳に障害のある難聴は治療方法がなく、せいぜい補聴器装用しかなかったのです。しかし、高度難聴(聾)になりますと、補聴器も役に立ちません。 従来、生まれつき高度難聴の子どもは聾学校に通い、手話や口話法によって、互いのコミュニケーションをしていましたが、一般の健聴者の世界に参入することは困難でした。 また、中途失聴者と言って、成人になった後にいろいろな原因によって全く聞こえなくなってしまう場合もあり、そのような人々は手話が使えるようになるまでに随分苦労しなければなりませんでした。 1980年代にメルボルンで発明された人工内耳は内耳に電極を挿入し、音波を電波に変えて聴神経を電気刺激するものです。最初は随分乱暴なことをすると思いましたが、成績が発表されるにつれて、その効果が認識されるようになりました。生まれつき高度難聴の子どもに対しても、諸外国での成績を見ますと、聾学校が不要になる勢いです。

【日本の状況】日本においても1988年に第1例が手術されましたが、厚生省の慎重な態度のため、その普及は諸外国に比し遅れていました。しかし、1997年になり医療保険適用が認められ、急速に普及して来ています。 日本でも人工内耳の手術を受けた高度難聴児が増え、成績も非常に良いと報告されています。ただし、ことばを覚え出す満6歳までに手術を受けなければ十分な効果は得られません。できれば3,4歳で手術を受けますと、自然のうちにことばを獲得し、小学校も普通学級に進めるようです。 生まれつきの高度難聴児の出生率は0.1%と言われ、日本全体では毎年約2000人の高度難聴児が生まれています。それら全員に人工内耳の手術をするには施設数が十分ではありませんが、数年の後にはそれも完備することでしょう。

【香川医大の第1例】私が香川医大に在任中(10年前)に行われました最初の症例も10年間音を聞いたことがなかったのですが、手術後2週間で家族と電話で話ができ、私自身も驚きました。 その時、患者さんは、言葉が分かると言っても健康な時に聞いていた音ではなく、頭を木槌で叩かれているような感じだと言われていました。それでも馴れると言葉として理解できるようになってきます。

【難聴の赤ちゃん】貴方の周辺の赤ちゃんは、音の出るおもちゃで遊んでいますか、後から小さい声で呼んだ時振り向きますか、と注意してあげてください。もし、2歳になってもことばが出ないようであれば、相当心配です。すぐにら耳鼻咽喉科医を受診してください。